統計で「消えた」外国人宿泊客はここにいた

統計と実体経済に乖離(かいり)がある――。日銀と内閣府で国内総生産(GDP)統計を巡る論争が熱を帯びたのは昨年のこと。それと同じことが、観光でも起きている。国の訪日外国人数と宿泊の統計が一致しない。訪日客数ほど宿泊者数が伸びていないのだ。統計には表れない民泊やクルーズ船の宿泊に流れているようだが、それだけではなさそうだ。

訪日客22%増、宿泊客9%増 この差は?

宿泊者数、前年割れになった月も

宿代わりに夜行バス、訪日客の利用増える

ウィラーアライアンス(東京・新宿)の夜行バスは東京~大阪間3900円程度。シートも快適なことから宿の代わりに使う訪日客が増えている。こうした夜行バスの利用増も追い風となり、同社の高速バスを利用する訪日客は2016年に13万人と、5年前の約4倍まで膨らんだ。

車中泊は新たなビジネスを生む。レヴォレーター(東京・渋谷)はオーナーからキャンピングカーを借りて貸し出す。いわば、キャンピングカーのシェアリングエコノミー。当初は日本人に貸し出していたが、訪日客の申し込みが増えている。「自由気ままな旅が良い」。昨春、韓国人の家族はキャンピングカーに乗り富士山周辺でキャンプやバーベキューを満喫した。キャンピングカーで寝泊まりするのでホテルを探す手間が省ける。昨秋にシンガポール人ら9人の一行は都内で遊んで富士山に行き、岐阜県高山市、上高地、関西に立ち寄った。最後は再び都内に戻り、10日間で日本を遊び尽くした。レンタル代は平日1日7500~3万円程度。6人で乗れば1人5000円で済む。訪日客を取り込もうと海外向けネットメディアのイグルー(神奈川県鎌倉市)と手を組んだ。羽田空港にカウンターの設置もめざす。

空港で夜明かし 宿泊費浮かして買い物に

半分ぐらいの人は薄い青色の毛布にくるまって眠ったり、スマートフォン(スマホ)をいじったりしていた。関空ではここで寝泊まりする人のために〝人道毛布〟を無料で貸し出している。「日本は寒い。毛布まで借りられるなんて本当にすてき」と声を弾ませた黄さん。「明日も買い物しまくるわ!」とすぐに眠りに落ちた。関空を運営する関西エアポートによると「毛布は遅く来ると借りられなくなる」人気ぶり。エアロプラザ以外でも第1旅客ターミナルのベンチで寝転がったり、終夜営業のマクドナルドなどでスマホをいじったりしている外国人の姿がめだつ。早朝深夜に発着する格安航空会社(LCC)の便の増加もあり、関空は2015年から大阪市内を結ぶバスを24時間走らせている。それでも宿泊代がもったいないと、空港に泊まる訪日客は多いようだ。大阪市内では24時間営業のサウナに外国人客の姿が目に付くようになった。「浴衣に生ビールというのは日本の生活を体験したい外国人には魅力的に映っている」(大手旅行会社)。仮眠スペースで夜を明かす外国人は増えるだろう。

泊まれるテーマパーク、ラブホテル

ビジネスホテルはモノトーンの内装、ユニットバスなど部屋はどこも似たり寄ったり。それよりも大きなベッド、足を伸ばせる広いバスタブがあるラブホテルの方がすてき――。ビジネスホテルと同等の価格ながら豪華な日本のラブホテルは、泊まれる「テーマパーク」として外国人客の人気を集めている。一般的な「ラブホテル」は旅館業法の要件を満たしつつ、風適法に該当する。18歳未満は入室ができず、家族連れは泊まれない。そのため訪日客を取り込もうと、旅館業に「転向」するラブホテルが増えている。警察庁によると、ラブホテルは約5800件。宿泊統計でつかみきれない「隠れた資産」だ。日本中小ホテル旅館協同組合の金沢孝晃理事長は「平日の稼働率は約4割にとどまる。民泊よりも宿泊所不足に貢献できる」という。国も条件付きで改装費用を融資で後押しする。大阪市内では改装したら平日の宿泊客のほぼ全組が外国人になったホテルもある。

統計に出ない船中泊、クルーズ入国は8割増


1月13日午前9時。博多港に着岸した全長290メートルの巨大クルーズ船「サファイア・プリンセス」から中国人訪日客が続々と降りてきた。その数約3000人。ガイドが約70台のバスに誘導する。船内には大浴場や運動場、劇場まであり「ホテルというより〝街〟」(福岡市港湾振興部)。訪日客はこの船に寝泊まりしながら各地を巡る。
 博多港はクルーズ船の寄港回数が国内最多だ。16年は328回と前年から27%増え、入国者数は約170万人に上る。閑散期は高級ホテルの1泊料金並みの3万3000円程度でツアーが販売されることもあり、低価格化も人気に拍車をかけている。クルーズ船で日本に入国した外国人は前年比78.5%増の199万人となり、過去最高を記録。外国人宿泊者数の統計を担当する観光庁観光戦略課は「船に宿泊する外国人観光客数は把握できていない。宿泊者統計に含めることも検討する必要がある」と話す。

大阪の訪日客調査、17%が民泊を利用


国の統計に表れない外国人の「寝場所」で増えているとみられるのが民泊だ。旅行者を一般住宅の空き部屋などに泊める民泊の場合、旅館業法上の許可を得ていないケースが多く、国の宿泊者統計には実態が反映されにくい。大阪観光局の聞き取り調査では外国人旅行者の17%が「民泊を利用した」と回答。民泊仲介最大手、米エアビーアンドビーでも2016年は370万人の訪日客が利用したといい、まとまった数が国の宿泊者統計から「消えた」可能性がある。JTB総合研究所(東京・港)の黒須宏志主席研究員は「ホテルや旅館に泊まらない訪日外国人の受け皿のひとつが民泊」と指摘する。背景には訪日客の変化がある。韓国やマレーシアなどから来る訪日客はLCC利用が急増し、若い層が増えている。こうした客は低予算で宿泊するために民泊を選ぶ人も多いようだ。

大都市のホテルから遠のく訪日客

日本経済新聞社がまとめた都内の主要ホテルの客室の平均稼働率が16年2月、11カ月ぶりにマイナスに転じた。各ホテルは料金を強気で引き上げ、15年に全国ホテルの客室平均単価は10%以上上昇。英国の欧州連合(EU)離脱問題で円高が進み、昨夏、訪日客の足が大都市のホテルから遠のいた。「訪日客はどこへ消えたのか」と都内ホテル幹部はみな首をかしげていた。16年は日本経済の実態が正しく捉えられていないとして日銀と内閣府で国内総生産(GDP)統計を巡る論争が熱を帯びた。観光も、既存の枠組みでは捉えきれない経済が存在感を増している。

記事・画像:日本経済新聞から

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