「食材ムダなく」名店もキャンセル待ち可能に

高級飲食店専門の予約サイトを運営するのがポケットメニュー(東京・渋谷)だ。戸門慶社長(36)は和食店の家に育ち、自身も料理人として10年近く働いた経歴を持つ。その経験を生かし、通常ならサイト掲載を断られるような名店も口説き落とす。訪日旅行客(インバウンド)の増加とともに、和食文化発信の役割も担う。

ポケットメニューの予約サイト「ポケットコンシェルジュ」には客単価が2万~3万円のすし店など高級店がずらりと並ぶ。450店を掲載し、登録会員数は約17万人に上る。一番の特徴は、予約が難しい高級店でもキャンセル待ちができること。急なキャンセルがあるとサイトを通じて連絡が入る。「料理は3~4割が食材費。『ドタキャン』(直前の予約取り消し)による店側の損失を防げる」と戸門氏は話す。この機能を付けた理由は戸門氏の原体験にある。実家は埼玉県入間市で和食店「郷土料理ともん」を営む。小学生の頃、家に帰ると父親ががっかりしていた。朝から仕込みをしていたにもかかわらず、急なキャンセルで食材が無駄になってしまったのだ。

 山菜や川魚など自然の食材が売りで、定休日には長野県や新潟県にまで仕入れに出ていた。「飲食店はハイリスク・ローリターンのビジネス。それでも客の喜ぶ顔が見たいと頑張っている。リスクヘッジの仕組みが必要だと考えた」そうした体験から料理人の夢と同時に、飲食店の課題を解決する経営者になりたいという目標も芽生えていった。高校卒業後、飲食店の格付け本ミシュランで星を獲得した店などで料理人の修業を積み、カウンターに立つなかで経営者との交友を深めた。飲食店のコンサルティング業務を経て、2011年にポケットメニューを創業した。

 ポケットコンシェルジュは他の予約サイトには載らない名店も150店ほど掲載している。口説き落とせたのは戸門さんの料理人としての経験による。ときには閉店後の午前1時に訪問、店主にサイト掲載を働きかけた。最初は雑談が中心で「このハモはどこの産地を使ってるんですか? 今の時期は高いですよね」などと会話を重ねた。特に山菜の話題はお手の物。フキノトウやタラの芽、コシアブラなど小さいときから慣れ親しんだ山菜の知識は、名店の店主も一目置いた。長いときは半年かけて信頼を築きサイト掲載にこぎ着けた。そうした店からの紹介で優良店の掲載が増えているという。

一方、社内で30ほどの規定を作り、基準に達しない店は依頼があっても掲載を断ることもある。オーナーが現場に立っているか、座席数が一定の数字以下かなどだ。店主の目が隅々にまで行き届いているかどうかが主な基準だ。

現在見据えるのは海外への和食文化の発信。英語版と中国語版を用意しており、既にサイト利用の3分の1は海外からだ。増加する訪日客が追い風になっている。2年前、有名すし店が中国人の予約を断ったとして論争になったことがある。双方に言い分はあったが、ポケットコンシェルジュはクレジットカードによる決済のため、そうした問題も解決できると見る。「世界に誇れる和食を楽しめないのは訪日客にとっても残念」

現在は料理店への営業や経営企画だけでなく、人材採用が戸門氏の仕事の半分近くを占める。台湾や香港出身者も採用し国際化を進める。昨年は米有力ベンチャーキャピタルの500スタートアップスからの出資も受けた。調達資金は広告宣伝やシステム開発、人材採用に充てている。これまでロンドンの和食店や、高級ホテルのザ・リッツ・カールトンで働いていた社員を採用。予約客に記念日やアレルギー対応などの要望を積極的に尋ねており、接客経験の豊富な社員を配置する。「サイトに店舗を掲載して終わりではなく、店と客の満足度向上に努めたい」と熱く語る。

記事:2017年6月9日 日本経済新聞
画像:Value Press

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