集客につなげる図書室

本を楽しめる図書室のようなスペースをつくる動きがいろいろな場所で広がっている。オフィスの一角に設置する事例が目立つほか、戸建ての分譲住宅街や医療施設など、従来にはあまり例がなかった場所でも図書スペースを設ける事例が出てきた。本を呼び水に様々な人に集まってもらい、交流を生み出す狙いがある。

社員食堂に設置
東京都港区のソニー本社
社員食堂の一角を改装して3月に誕生したスペースで、昨年人気を集めた人類学の本やテーブルマナーの本など、バラエティーに富んだ約300冊を「食べる」「新しいアイデア」など4つのテーマに分類して並べた。

社員食堂はグループ企業も含め、毎日5000人が利用する。単に食事をするだけでなく「知らない社員同士が交流し刺激を受ける場にしたいと考えた」。様々な社員に来てもらい、仕事のアイデア醸成などにつなげるためのきっかけとして本を活用する。

ゲーム製作会社のアカツキは社内に図書室を設け、約800冊をそろえた。ゲームのヒット作を生み出すには斬新なアイデアが欠かせないが「社員は技術書やビジネス書などすぐに役立つ本を読みがち」。そこで芸術や建築、宇宙など様々なテーマの本を置き、社員の想像力を刺激する狙いを込めた。

図書室は昼ご飯を食べたり、ボードゲームで遊んだりする場所としても使われている。通常の執務スペースはヘッドホンをしながら集中して仕事する社員も多く、目の前の仕事に関係ある話以外はしにくい面もある。社員からは「本を楽しめるし、気分を変えて同僚と会話もできる」と好評だ。

仕事場だけでなく、住まいにも図書スペースは広がっている。横浜市で野村不動産とIHIが分譲中の「プラウドシーズン横浜洋光台」。全203戸の戸建て住宅街の中心部には「つながるHOUSE」と銘打たれた共用施設があり、絵本や女性向けの雑誌など約200冊が置いてある。

子供連れ多く
東京都を中心に図書室のあるマンションは増えているが、戸建ての分譲住宅街では珍しい。

大規模な分譲住宅街は住民同士の交流が限定されがち。野村不動産・住宅事業本部の吉井浩介課長代理は「自然と交流できる場所が必要だと考えた」と話す。子供が別の家庭の幼児に絵本を読み聞かせることも多い。施設にある本は青山ブックセンターが選定。利用者が飽きてしまわないよう、定期的に新しい本が追加される仕組みだ。

2月に開業した有料老人ホーム「ウェルケアガーデン深沢」(東京・世田谷)も1階の共用部に図書スペースを設け、約250冊を置いた。足腰が弱っていたり、体の具合が良くなかったりする高齢者は部屋にこもりがち。本を読む場所があれば部屋から出るきっかけになり、他の居住者との交流にもつながる。置いてある本には児童書もあり、遊びに来た孫に読み聞かせることもできる。

 意外な場所にも図書スペースはつくられている。昨年12月に開所した、日本初の眼科に特化した総合医療施設「神戸アイセンター」(神戸市)。その入り口に珍しい植物の図鑑や昔のアイドルの写真集、においの出る絵本など思わず手に取りたくなる本が置かれた空間がある。

 この空間は「ビジョンパーク」といい、「目がみえにくい人が普通の生活ができるよう支援するのが目的」でつくられた。あえて段差を設け、安全に歩くための訓練もできるようにした。ただ、その分立ち寄りたがらない患者も多くなりがち。そこで興味を引くような本を置き、自然と立ち寄ってもらいたいとの思いを込めた。

 この施設の本を選んだバッハ(東京・港)の幅允孝社長は「ネット時代で書店に行く人が減り、知らない本を手に取る機会が少なくなった」と指摘。身近な場所に図書室があれば未知の本との出会いを求める人が訪れるのを期待できる。同社に「本を置きたい」と相談する企業や団体は多い。今後も様々な場所に図書室が登場しそうだ。

記事:2018年4月9日 日本経済新聞
画像:https://www.huffingtonpost.jp/

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