本作り 読者も一員

読者を本作りに呼び込む動きが目立っている。小説刊行前に著者と共に題名やコピーを考えたり、クラウドファンディングで応援者を募ったり。新たな試みに作家も可能性を感じている。

作家も企画歓迎
大学生の青柳尚慈氏は「周囲の学生が就活に向けてインターンや留学などに力を入れる中、自分も何かに挑戦したかった。作家本人に会えて、業界の話も聞ける」と充実した様子だった。同社の早川淳副社長は「ターゲットにすべき読者層が分かり、ユーチューバーを起用する宣伝策など斬新なアイデアも出てきた」と手応えを口にする。

小説の場合、本の売り方を考えることは、必然的に「作品が伝えたいことは何か」という核心に迫ることになる。そうした視点で読者から感想や質問が出るため、著者の藤田氏は「書きたいことと読まれるもののバランスを取るのに役立つ」と企画を歓迎する。

本作りは著者と編集者の二人三脚ともいえる。内容をともに練り上げ、コピーの文言や装丁を編集者が著者に提案することも多い。宣伝方法については営業部が主導することもある。そうした舞台裏に加わった読者にとって刊行された本は特別なものとなり、出版社は交流サイト(SNS)などを通じた情報の拡散も期待できる。

「単純に周囲に本を薦めてくれるファンをつくるというより、効果がかけ算になる施策を考えている」と語るのは、KADOKAWAの編集者である堤由惟氏だ。今春発刊の新シリーズ「L―エンタメ小説」で須崎正太郎氏の「戦国商人立志伝」を担当。仕事の比重は「本の中身づくりとプロモーションが半々」という。

 応援者を増やすため、ネットを通じて支援金を募るクラウドファンディングも採り入れた。支援者には特典として「人気キャラクターの特別ストーリー」や「読者代表としての作品布教セット」などを贈る。

ネット時代こそ
「コアなファンをつくると同時に、特典の面白さをSNSなどでつぶやいてもらえたらそれがまた話題を呼ぶ。作者、読者、編集者がフラットにやりとりすることを目指したい」と堤氏。著者の須崎氏は「自分は作者であると同時にプロジェクトの一員という感情も強い」と前向きだ。

作品の届け先だった読者の存在が大きくなることで創作への弊害はないのか。須崎氏は「倫理観に反するような要望でない限り、読者の求めるものに応えたい」と言う。

すぐに読者の反響が書き込まれるウェブメディアの経験が長い藤田氏も「読者の声を意識するのは、むしろ当然。特定の人の意見をそのまま受け入れるのではなく、持ち帰ってかみ砕くようにしている」と適切な距離を保つ。執筆という孤独な活動を続ける作家にとって読者とつながることは「モチベーションが上がる」(堤氏)という利点もある。

電子書籍の普及で紙の出版物は減少傾向にあるが、ネット時代だからこそ作品発表の場は広がり、新たな販促策が生まれた。「ネットを通じて発信者と受け手が混じり合う状況を作品作りにもっと生かしたい」と堤氏。読むだけじゃない読者の存在が違和感なく作者にも受け入れられることで創作の可能性もさらに広がりそうだ。

記事・画像:2018年4月24日 日本経済新聞

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