外国人にあえて夕食付き。定説覆す集客術

人口減少が加速するなか、日本は国をあげて訪日外国人を呼び込もうとしている。だがターゲットが定まらず、感覚的に満遍なくアプローチしているケースは多い。そうしたなか兵庫県豊岡市にある城崎温泉は欧米豪を中心に、外国人宿泊客数を5年で10倍に伸ばした。緻密なデータ分析をもとに、夕食付きプランは外国人に受けないという定説も覆した。

■欧米豪に照準、外国人客は5年で10倍
「17年の外国人延べ宿泊者数でいうと、豊岡市にある城崎温泉の場合は東アジアが約50%、欧米豪が約30%でした。全国平均から考えると、欧米豪の割合は高いと思います。直近の伸び率で見ても、全国的には前年比で大きく伸びている韓国や中国が、城崎温泉では伸びていません。一方、欧米豪は十数%伸びています。偶然ではなく、ターゲット選定の中で狙って対策してきている結果ですが、まだまだ十分な数字だとは思っていません」

─30%ということは、全国平均の2倍近いです。なぜ欧米豪の集客に成功しているのでしょうか。
「最初に、欧米豪をターゲットに選んだ理由から説明したほうがわかりやすいかもしれません。主に欧米で人気のある個人旅行者向けのガイドブック『ロンリープラネット』で紹介されたということもあって、城崎温泉の地域の方々としては、08年ごろには『欧米を狙おう』という声がありました。というのも、城崎温泉の場合、団体のツアー客をどんどん集客できるような大型の宿泊施設もありませんし、買い物を目当てに来るようなところでもなかったからです」

─観光庁の「訪日外国人消費動向調査」を見てもわかるように、欧米豪に比べて、アジアの訪日客は買い物を好む傾向があり、団体客の割合も多いですよね。一方で、欧米豪の方は、文化体験的な「コト消費」を好む傾向にあります。

「はい。やっぱり、観光ってどうしてもプロダクトアウト的なところがありますから。個人客、それも風情のある温泉街を、浴衣姿でげたを鳴らして歩くというローカルな体験を求める欧米の個人客との相性がいいだろうって考えたんですね」

「ただ、それは感覚的なところで言っていただけでした。そこで、豊岡市として正式にインバウンドの施策を始めた13年に、データを取ってみることにしました。それで確かに欧米豪のほうが多いことがわかった。それで確信を持って欧米豪をターゲットにして、伸ばしていきましょうってなりました」

■京都や大阪のホテルに案内カード
─なるほど。では、欧米豪をターゲットに決めた後、どんな施策を打ったのでしょうか。具体的に欧米豪から集客するために行ったことを教えてください。
「いくつかデータに基づいた施策を行っています。たとえばWi-Fiの行動データ(移動データ)を取っているのですが、それによって、どこにいた人が城崎温泉に来ているのかがわかります。その中で、欧米豪の方に人気のあるエリアに絞ってPRするという施策があります。代表的なエリアは京都、あとは飛騨高山とかですね」

─京都にいる方に届くように広告を打つこともあるのですか。
「そうですね。あとは欧米豪の方が泊まっている京都のホテルに行って、コンシェルジュの方に対して営業をかけることもあります。ウェルカムカードを配って、『行き先を探している人がいたらぜひ紹介してください』って」

「実はこのウェルカムカードは、京都だけでなく、大阪と神戸でも配っています。そこには宿泊予約もできる『Visit Kinosaki』という豊岡市の観光情報サイトにアクセスするためのQRコードを載せているのですが、配布する場所によって異なるQRコードを掲載しています。それぞれのアクセス数のデータを見ることで、どこからの反応がいいのかを見ることができますし、実際にアクセスしている場所もわかります。京都で受け取ったはずなのに、北海道からアクセスしている人がいる、みたいな」

─それは面白い試みですね。施策の選択と集中を手助けする材料になります。
「他には、DMO(観光地経営組織)に依頼して、欧米豪にいる人たちに城崎温泉の写真を見せて、何に反応するのかを調べています。どういう打ち出し方が好感を持たれるのかが見えてくるので、それをPRのヒントにしています。また、フェイスブックやグーグルで、ターゲットを絞った広告を打つこともしていますし、アメリカのマーケティング会社を使って、動画マーケティングのデータを取って、どうすればもっとも効果的に海外にいる人たちに城崎温泉のことを知ってもらえるかを検討したりもしています」

─私自身、全国各地でインバウンドのコンサルティングを手がけていますが、地方に行けば行くほど、「感覚」に頼る方が多いなと感じています。しかし城崎温泉のある豊岡市では、先ほどの谷口さんのお話にもあったようにデータを重視している。もちろんデータだけに頼っているわけではないと思いますが、なぜそれほどデータを重要視するのでしょうか。

「感覚的なところを否定するつもりはありません。私自身、どちらかといえば、データは勘と経験を補完する役割に近いのかなと思っています。医療で例えると、何となく聴診器をあてて検査していたのを、レントゲンを撮って可視化するようなイメージに近いかもしれません」

■新しい仮説を立て、データで検証
─行政の取り組みはどうしても全方位的というか、玉虫色になりがちです。でも、そこにデータが加わると、お金をかけるべきところにきちんと資本投下できたり、「ファミリー層を狙う」といった具合に明確なターゲティングができたりするようになるということですね。では、あまり「データによって新たな発見や気づきが得られた」ということはないのでしょうか。

「そうですね。暗黙知としてあったものを再確認するほうが多いと思います。とはいえ、まったく新たな気づきがないということでもなくて。たとえばNPS(ネットプロモータースコア)と呼ばれる『人に勧めたい度』を測る調査があります。最近、この調査で興味深いことがわかってきたんです。それは、旅館で1泊2食付きプランを経験した外国人のほうが、1泊朝食のみプランを選んだ方よりも『他の人にオススメしたい』と思ってくれるということです」

─ここ数年、地方への誘客の有効手段として、「1泊朝食のみプラン」の拡充が提唱されていますよね。いわば外国人目線を踏まえた施策だと思いますが、それを覆すようなデータが出てきたということでしょうか。

「ご存じのように、城崎温泉にあるような旅館は、従来では1泊2食付きがスタンダードなプランでしたが、外国人観光客に合わせて1泊朝食のみプランを用意し、実際にそれを選択する人も増えてきました。だから最初は好きでそれを選んでいると思っていたんです。でも、先のNPS調査によって、『夕食が付かないプランがスタンダードだと思いこんでいるだけではないか』と考えを改めたんです」

─日本の受け入れ側が、過度に外国人の習慣に反応し、その結果、本当に魅力のあるプランを体験してもらう機会を逃している可能性があるということですね。
「考えてみれば当然で、城崎温泉の魅力のひとつは、旅館ごとに創意工夫された夕食です。それは相手が外国人だろうと変わりません。だったらきちんとそこの魅力を打ち出し、日本の旅館文化を伝えてあげて満足度を高めたほうが、中長期的に見て集客につながるのではないかと考えています」

「実際、旅館の方々によれば、『日本の旅館というのは夕食付きが普通で、お勧めなんですよ』と説明すると、プランを変更する人も多いそうです。だから、そこはきちんとコミュニケーションを取って、もっとも城崎温泉らしいことを体験してもらうことで感動を呼び、クチコミを書きたい、友人に勧めたいという動機づけにつなげていくことが、理想的な形ではないかということです」

─外国人目線を取り込むことで集客に成功している例もあります。私も「日本人だけで考えることはNG」としていました。でも、外国人目線だけで考えるのも、同じくNGだということですね。それをデータが教えてくれた。

「はい。何度も言うようですが、あくまでデータは予想や仮説を立証するもの、打ち手や施策の合理性を説明するためのものです。ただ、このNPS調査のように、新たな仮説を立てたり、従来の仮説を覆したり、よりよい施策を行うための材料になることも確かです。そのときに大事なのは、データを分析する力、調査を発注する力です。能力がない人がデータを見ても、それはファクトが羅列しているようにしか見えませんので」

■民間との連携や出向で人材を育成
─そういった人材という意味では、特に地方の自治体や観光地は難しい状況にあると感じています。谷口さんが勤める豊岡市役所では何か対策をしていますか。
「おっしゃる通り、人材の育成や確保は難しいところです。豊岡市では、私が課長を務める大交流課という部署がインバウンド施策に取り組んでいて、プロパーが7人、外部から3人の人材を受け入れています。一方で、知見を深めてもらおうと、大交流課では積極的に外部への出向を行っています。現在は、約10人が楽天や日本航空、日本政府観光局(JNTO)、DMO(一般社団法人豊岡観光イノベーション)などに出向しています」

「民間との連携も大切です。これまでの契約関係、つまり発注と受注というだけの関係ではなく、お互いで地域課題を解決していこうというパートナーシップを築く必要があると思っています。市の取り組みに共感してもらったうえで、お互いにウィン・ウィンになれるような関係性を目指しています」

─城崎温泉は欧米豪の集客に成功しているといわれ、実際に数字として成果も出てきていますが、課題はありますか。
「インバウンド施策に成功しているといっても、まだまだその数字は十分だと思っていません。具体的には、豊岡市全体のインバウンド宿泊客数が2017年で約5万人でしたが、2020年に10万人を目指しています。そして、その10万人のうち『Visit Kinosaki』でのシェアを10%、確保したいと考えています」

─なぜ10%のシェアを確保したいのでしょうか?
「ひとつには、誰がどこからいつサイトに来ているのかとか、どんな経路で流入してきているのかといったデータを自前で取ることで、ネットマーケティングのスキルを上積みしていくためです。正直、海外の予約サイトに比べて、『Visit Kinosaki』の手数料は決して安くありません。ただ、その手数料の使い道が異なります。我々のサイトの手数料については地元に還元するように使いますが、予約サイトはそうではありません」

─他にも課題はありますか。
「城崎温泉エリアは面積で考えると豊岡市の約4%しかありませんが、そこに外国人宿泊客の9割が集中しています。もっと豊岡市全体で経済波及効果を実感してもらえるような取り組みが必要だと思っていますし、あとは我々が持っているデータや知見をもっとオープンにし、地域のみなさんと共有していくことも十分ではありません」

記事・画像:日経スタイル

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