里山レースで地元の魅力発見

我が国では人口減少が進んでいるが、今後消滅する可能性のある自治体は900近くにもなるそうで、確かに地方の山村ではその衰退ぶりに驚かされることもある。そうした山村地域を活気づけるイベントとして野山を駆けるトレイルランの大会はどうだろうか。

 温泉地や名所旧跡など観光の目玉がない地域でも「山だけはあるんだけど」というところは多い。そもそもトレイルランニングの醍醐味は森の雰囲気を楽しむこと。ゆえに危険個所の少ない静かなフィールドの方が適している。つまり何の変哲もない里山こそ望ましい。平凡な里山でも山の様相や規模に応じてコース設定はいかようにもできる。地元のやる気次第で大会をつくることは可能なのだ。

 トレイルラン大会では参加者の人数が比較的少ない。そのせいで地域に及ぼす経済効果はあまりないと思われがちだが、実際そんなことはない。競技時間は長いものだと12時間を超えるので、スタートが早朝だったり、山間部で開催されたりするとランナーは前後泊せざるを得ない。試走やトレーニングとして大会当日以外でもコースの山を訪れるランナーも現れるようになる。

 一般的なマラソン大会は地域にとってその日、その時間だけ多くの人々が訪れるのに対し、トレイルランニングではレース前後へと来訪期間に幅と厚みがあり、ひいては年間を通して人々が訪れるため、地域を十分に理解してもらいやすい。

 コースの設定が比較的自由にできるのも利点のひとつ。マラソン大会ではコースにできないような、山道の先にある町を一望できる美しい丘を通ってみたり、清流や山村集落ののどかな雰囲気を味わえる地域のさまざまな特徴あるスポットを紹介できたりと、地元のアピールにも活用できる。

 さらにトレイルランニングの大会開催を通じて訪れる人が増えてくると、トレイルが整備されてわかりやすくなる。するとランナーだけでなく登山者やハイカーが訪れるようになり、良い循環が生まれて再び山が地域の宝となる。トレイルラン大会は山村地域を元気にするさまざまな可能性を秘めている。

 正直な話、年一回トレイルラン大会を実施するだけで、地域の未来が全てバラ色になるわけではない。ただ大会で山里をめぐると、選手は口々に「この山の雰囲気いいですね」「あの稜線(りょうせん)からの眺めがきれいですね」「この場所は本当に素敵ですね」と語り、地域の自然をほめたたえるのをよく耳にする。これに「うちには山しかない」と言っていた地元の方々は大きな喜びを感じるし、地域への愛着と誇りを再確認するようだ。

 トレイルラン大会にかかわってみると、そこに住む人々がその地に生まれ、生活して心からよかったと思える気付きの機会が増えることこそが大会を開催する本当の効用だと感じる。過疎の山里を走らせてもらい、ともに活力を与え合うウィンウィンの関係を全国各地で築けたらと思う。

記事・画像:2018年7月4日 日本経済新聞

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